acrylicをつくった理由

acrylic
AIは急速に進化しました。しかし、文書業務はまだ大きく変わっていません。acrylicが文書編集とデータの管理をひとつの課題として捉える理由をお話しします。
acrylicをつくった理由はシンプルです。
AIは急速に進化しました。それでも、文書を使う仕事は、私たちが期待したほど変わっていません。
ここ数年で、AIは文章を書き、画像をつくり、複雑な質問に答えるだけの存在ではなくなりました。実際の作業を担い始めています。特に変化が早かったのがソフトウェア開発です。いまや開発者は、コードについてAIに質問するだけではありません。修正したい内容を伝えると、AIが関連するファイルを探し、コードを書き換え、テストを実行し、レビューできる変更として残します。
仕事の単位が「質問する」から「任せる」へ変わったのです。
一方で、報告書やスプレッドシート、プレゼンテーション資料のつくり方は、いまも以前とほとんど変わりません。
AIに下書きをつくらせ、その内容を文書に移し、書式を整え、間違いがないかを確認する。参照するファイルが複数あれば、ウィンドウを行き来しながら内容を照合し、手作業で反映します。AIの回答は良くなりました。それでも、文書を完成させる仕事は人の手に残っています。
私たちは、この差が機能をひとつ追加すれば埋まるものだとは考えていません。
文書業務を任せるためにAIが必要とする作業環境が、まだ十分につくられていないのです。
AIが文書を直接扱うということ
文書の編集は、文章を生成するよりも複雑です。
報告書には段落や表、スタイル、ヘッダー、脚注があります。スプレッドシートの数値は、ほかのセルや数式とつながっています。プレゼンテーション資料では、文章、画像、図形の位置と順序が一体となって意味をつくります。どのファイル形式にも、編集後まで保たなければならない固有の構造があります。
一文を書き換えるだけで済むこともあります。しかし、実務ではそうでない場合のほうが多いものです。
四半期の実績が変わったとき、スプレッドシートの数字を直すだけでは終わりません。報告書の表や本文、結論も確認する必要があります。同じ数字をプレゼンテーション資料で使っていれば、そのファイルも修正しなければなりません。数字は合っていても数式が壊れることがあります。内容は正しくても、文書の形式が崩れて使えなくなることもあります。
AIが文書の中で仕事をするには、ファイルを単なるテキストとして読むだけでは不十分です。
どの要素がどこにあり、互いにどう関係しているのかを理解する必要があります。既存の文書から修正箇所を見つけ、必要な部分だけを変更し、それ以外の構造は維持しなければなりません。作業後のファイルは、もう一度開いて編集できる必要があります。
acrylicがAIチャットを追加するだけでなく、文書エンジンとエディターを一緒につくっているのはそのためです。
重要な文書ほど、AIには任せにくい
文書業務でAIの活用が進みにくかった理由は、技術的な難しさだけではありません。
AIの力を最も必要とするファイルほど、外部には出しにくい情報を含んでいます。
契約書には顧客情報や取引条件があります。財務報告書には未公開の数字が含まれます。人事関連の文書には個人情報があり、社内会議の資料にはまだ決まっていない計画が書かれています。
こうした文書は、読み込みや確認に多くの時間がかかります。形式が繰り返され、比較する作業も多いため、本来はAIが力を発揮しやすい領域です。
ところが、AIを使おうとすると、その前に別の問いが生まれます。
このファイルを外部サービスにアップロードしてよいのか。入力した内容はどこで処理されるのか。社内のセキュリティポリシーに反しないか。
文書の機密性が高いほど、AIの便利さよりも、ファイルを社外に出すリスクのほうが大きくなります。その結果、公開しても問題のない資料にはAIを使えても、本当に時間がかかる重要な業務には使えません。
私たちは、セキュリティを後から追加する法人向け機能だとは考えていません。
AIを実際の文書業務で使うためには、製品を設計する最初の段階から向き合うべき課題です。
文書編集とデータの管理は、ひとつの課題
正確に編集できても、重要なファイルを安心して預けられなければ、実務では使えません。
反対に、ファイルをPCの中で安全に扱えても、AIが文書を直接修正できなければ、ユーザーは回答を移し、書式を整え直すことになります。
どちらか一方を解決するだけでは、文書業務の進め方は変わりません。
だからacrylicは、文書を編集する環境とAIを動かす環境を一緒につくっています。
ユーザーはHWPX、DOCX、XLSX、PPTXファイルをacrylicで開き、手元の文書をそのまま使って作業を続けられます。AIエージェントは依頼に必要なファイルを確認し、内容を比較し、実際の文書に変更を反映します。
たとえば、「このスプレッドシートで変わった数値を確認して、四半期報告書に反映して」と依頼できます。acrylicは2つのファイルを開いて内容を比較し、報告書の中から修正すべき表や文章を見つけて変更します。
作業結果はチャット画面だけに残るのではありません。元のファイル形式で保存され、ユーザーは同じエディターで変更内容を確認し、そのまま編集を続けられます。
AIに作業を任せても、最終的に判断するのはユーザーです。
AIをどこで動かすかも、選べるべき
すべての文書を同じ方法で処理する必要はありません。
複雑な推論や高い性能が必要な作業には、クラウドAIが適している場合があります。一方、個人情報や社内情報を含む文書では、ファイルと依頼内容をPCの外に出さないことのほうが重要です。
acrylicはクラウドですぐに使い始められる一方、対応するPCではローカルモデルも利用できます。ローカルモードを選ぶと、文書や依頼内容を外部のAIサービスへ送らず、PC上で処理します。
ローカルAIが、あらゆる作業でクラウドより優れているという意味ではありません。利用できるモデルや処理性能はPCの環境によって異なり、複雑な作業にはクラウドモデルのほうが適している場合もあります。
大切なのは、ひとつの方法を押しつけるのではなく、作業に応じて選べることです。
社外に出しても問題のない一般的な業務はクラウドで素早く処理し、機密性の高い文書はPC内で扱う。組織固有のセキュリティ要件がある場合は、自社で管理する環境でも実行できる。その選択肢が必要です。
データをどこで処理するかをユーザーが決められるようになって初めて、AIはより重要な業務を担えるようになります。
なぜ、すでに使われているファイルから始めるのか
多くの知的業務は、最後にはファイルとして残ります。
調査や分析の結果は報告書になり、数字はスプレッドシートにまとめられます。新しい計画はプレゼンテーション資料になり、組織の意思決定は契約書や規程、さまざまな社内文書に記録されます。
文書形式や仕事の進め方は組織ごとに異なります。それでも、共通して欠かせないことがあります。既存のファイルを引き続き使えること。ほかの人にそのまま渡せること。AIが作業した後も、元のアプリケーションで開いて編集できることです。
新しいAIツールを使うために、これまで蓄積してきた文書を別の形式へ移したり、新しい作業手順を覚えたりしなければならないなら、かえって仕事は増えてしまいます。
だからacrylicは、人々がすでに使っている文書から始めます。
DOCXの報告書、XLSXのスプレッドシート、PPTXのプレゼンテーション資料、HWPX文書。実務で使われているこれらのファイルを、ひとつのワークスペースで開いて編集できるようにしています。形式が異なっても、AIはそれぞれの文書構造を理解し、作業後も使い続けられる形で結果を残す必要があります。
私たちの目標は、既存のツールや文書を捨ててもらうことではありません。
いま手元にあるファイルから始め、AIとともに、より少ない手作業で仕事を終えられるようにすることです。
コーディングで起きた変化は、文書業務にも起こせる
コーディングと文書業務は同じではありません。
コードには決められた構文があり、テストで結果を確認できます。文書は目的も形式もはるかに多様です。同じ報告書でも、組織によって書き方は異なります。内容が正しくても、文体や表の構成が適切でなければ、そのまま使うことはできません。
そのため、コーディングエージェントの仕組みを文書にそのまま持ち込むことはできません。
それでも、コーディングの世界ですでに起きた重要な変化があります。
ユーザーが望む結果を伝えると、AIが作業対象を見つけ、必要な手順を進め、レビューできる結果を残す。人はすべての工程を自分で行う代わりに、AIが加えた変更を確認し、重要な判断に集中します。
文書業務も、この方向へ進めると私たちは考えています。
AIに文書のつくり方を尋ねるだけで終わるのではなく、実際のファイルで作業を任せられるべきです。新しい文書をつくるだけでなく、既存のファイルを引き継いで修正し、複数の資料を比較し、その後も使える形式で結果を保存する必要があります。
私たちは、この作業環境を「Agentic Office Suite(エージェント型オフィススイート)」と呼んでいます。
私たちが実現したい変化
acrylicは、まだ開発の途中です。
より多くの文書形式を正確に読み書きできるようにしなければなりません。複雑に関連するファイルの間でも、安定して作業できる必要があります。AIが誤った内容を書き込んだり、文書の構造を壊したりしないよう、確認の仕組みも改善し続けなければなりません。
ローカルモデルについても、性能や速度、対応できるPC環境という現実的な課題を解いていく必要があります。
簡単な問題ではありません。それでも、私たちが解決したい問題は明確です。
AIの進化を、より良い回答だけで終わらせないこと。
AIが実際の文書の中で作業し、ユーザーが結果を確認して、そのまま編集を続けられるようにすること。
機密性の高いファイルも、情報の性質に合った環境で安心して扱えるようにすること。
AIエージェントがコーディングのあり方を変えたように、文書業務のあり方も変えられると、私たちは信じています。
これが、私たちがacrylicをつくった理由です。